運転中に、うっかりサイドブレーキを引いたまま少し走ってしまった経験はありませんか?数メートルで気づけばまだしも、500m、場合によっては5キロも走行してしまうと、焦げ臭い匂いや異音がしてきて不安になりますよね。
特に、バックの際に気づきにくかったり、警告音が鳴らない車種だったりすると、修理代は一体いくらかかるのかと心配になるものです。この記事では、そんな万が一のトラブルに関するさまざまな疑問に、専門的な視点から分かりやすくお答えします。
この記事でわかること
- サイドブレーキを引いたまま走るリスク
- 走行距離ごとの具体的な対処法
- 修理が必要なケースと費用の目安
- 今後のサイドブレーキの扱い方
サイドブレーキ引いたまま少し走るときの軽微な影響
- 数メートル程度の走行なら問題ない?
- バック時に気づいた場合の影響は?
- 500m走った場合のブレーキへの負荷
- 運転中に異音がしたら要注意
- 警告音が鳴る仕組みと鳴らない車種
数メートル程度の走行なら問題ない?
結論から言うと、サイドブレーキを引いたまま数メートルから10メートル程度走ってしまった場合、車に深刻なダメージが及ぶ可能性は極めて低いです。
その理由は、私たちが普段、信号などで停止する際に踏むフットブレーキでも、車はブレーキがかかった状態で数十メートルは進んでいるためです。サイドブレーキはフットブレーキに比べて制動力が弱く設計されているため、短距離の走行であれば、通常のブレーキング操作と大差ない負荷しかかからないと考えてよいでしょう。
もし、すぐに気づいて解除し、その後、特に焦げ臭い匂いや異音、ブレーキの効きに違和感がなければ、過度に心配する必要はありません。

「サイドブレーキが弱くかかっていたから車が進んだ」というケースも多いです。強くかかっていれば後輪がロックされ、引きずるような感覚ですぐに気づくはずですからね。短距離であれば、ひとまず安心してください。
バック時に気づいた場合の影響は?
駐車時など、バックの際にサイドブレーキの解除忘れに気づいた場合も、前進時と同様に、走行距離が短ければ大きな問題になることはありません。
ただし、駐車スペースでの切り返しのように、段差を乗り越えるためにアクセルを普段より強く踏み込んでしまうことがあります。この場合、ブレーキに余計な負荷がかかる可能性はありますが、数回程度の操作であれば故障につながるケースは稀です。
注意点
他人の車を運転している際にこのような状況になると、もしものことがないか特に心配になるかと思います。しかし、数メートル程度の走行で故障するほど、現代の自動車は脆弱ではありません。車の持ち主から特に不調の連絡がなければ、問題ないと考えて良いでしょう。
むしろ重要なのは、このようなミスを繰り返さないことです。発進前にメーターパネルの警告灯を確認する習慣をつけましょう。
500m走った場合のブレーキへの負荷
走行距離が500m程度になると、少し注意が必要になります。このくらいの距離をサイドブレーキを引いたまま走ると、ブレーキ部品が摩擦熱を持ち始めるからです。
特に、後輪にドラムブレーキを採用している車種の場合、ブレーキシューという部品が熱でダメージを受ける可能性があります。
- ブレーキシューの摩耗:摩擦材が通常より早く減ってしまいます。
- ライニングの炭化:熱で摩擦材が炭化し、脆くなることがあります。炭化した部分は後々剥がれ落ち、ブレーキの効きが悪くなる原因になります。
走行後に後輪のホイール付近から少し焦げ臭い匂いがする場合は、ブレーキがかなりの熱を持った証拠です。すぐに重大な故障にはならなくても、ブレーキ性能が低下している可能性を考慮し、念のため点検を受けることをお勧めします。
運転中に異音がしたら要注意
サイドブレーキを引きずった後、運転中に「キーキー」「ゴーゴー」といった異音が聞こえるようになった場合は、注意が必要です。これはブレーキ部品が損傷しているサインかもしれません。
考えられる異音の原因
- ブレーキパッド・シューの摩耗:摩擦材が限界まで減ると、土台の金属がブレーキローターやドラムに接触し、甲高い金属音(キーキー音)が発生します。
- ハブベアリングの損傷:過度な熱が車輪の回転を支えるハブベアリングのグリスを溶かし、ベアリング自体を損傷させることがあります。この場合、「ゴーゴー」「ウォンウォン」といったうなるような音が発生します。
異音を放置すると、ブレーキが効かなくなるだけでなく、他の部品にもダメージが広がり、高額な修理費につながる可能性があります。異音が続く場合は、速やかに整備工場で点検を受けてください。
警告音が鳴る仕組みと鳴らない車種
多くの車では、サイドブレーキをかけたまま走行しようとすると、ドライバーに知らせるための警告機能が備わっています。
主な警告の仕組み
① ブレーキ警告灯の点灯
メーターパネル内に「(P)」や「BRAKE」、「!」といった赤い警告灯が点灯します。これはほぼ全ての車種に標準装備されている基本的な警告です。
② 警告音(ブザー)
一定の速度で走行したり、シフトレバーを「D」に入れたりすると、「ピーピー」という警告音が鳴る車種も増えています。
しかし、年式の古い車や一部の廉価なモデルでは、警告音が装備されておらず、警告灯の点灯のみというケースも少なくありません。警告音が鳴らないから大丈夫、と自己判断するのは危険です。
車を発進させる際は、必ずメーターパネルを確認し、赤いブレーキ警告灯が消えているかを目視でチェックする習慣を徹底することが最も確実な予防策となります。
サイドブレーキ引いたまま少し走る以上の走行と注意点
- 5キロ走行で考えられるトラブル
- 焦げ臭い匂いがしたら点検が必要
- 修理代はいくらくらいかかるのか
- 旧式サイドブレーキは廃止される?
- サイドブレーキ引いたまま少し走る際の結論
5キロ走行で考えられるトラブル
もしサイドブレーキの解除忘れに気づかず5キロもの長距離を走ってしまった場合、ブレーキシステムに深刻なトラブルが発生する危険性が高まります。
主な原因は、摩擦によって発生する異常な高温です。この熱が引き起こす代表的な現象が「フェード現象」と「ベーパーロック現象」です。
危険なブレーキトラブル
フェード現象
ブレーキパッドやシューの摩擦材が許容温度を超え、その成分がガス化します。このガスがパッドとローター(またはシューとドラム)の間に膜のように入り込み、摩擦力が急激に低下。結果としてブレーキが効きにくくなります。
ベーパーロック現象
ブレーキフルード(オイル)が熱せられて沸騰し、内部に気泡(ベーパー)が発生する現象です。気体は液体と違って簡単に圧縮されてしまうため、ブレーキペダルを踏んでも圧力がブレーキ本体に伝わらず、ペダルがスカスカになり、最悪の場合は全くブレーキが効かなくなります。
これらの現象は、重大な事故に直結する非常に危険な状態です。さらに、過熱したブレーキ周辺から出火し、車両火災につながる可能性もゼロではありません。長距離を走行してしまった場合は、ただちに安全な場所に停車し、専門家による点検を依頼してください。
焦げ臭い匂いがしたら点検が必要
走行後に車から焦げ臭い匂いがした場合、それはブレーキが異常な高温になったことを示す重要なサインです。
匂いの主な原因は以下の通りです。
- ブレーキの摩擦材が焼けた匂い
- ハブベアリングのグリスが溶けたり焼けた匂い
- ブレーキフルードが漏れて焼けた匂い
「少し焦げ臭い程度だから大丈夫だろう」と安易に考えるのは危険です。前述の通り、ブレーキ部品が熱で損傷したり、ブレーキフルードが沸騰したりしている可能性があります。匂いに気づいた場合は、ブレーキが正常に機能しないリスクを考慮し、速やかに整備工場で点検を受けることを強く推奨します。

ちなみに、普段の走行でも停車直後は多少の焦げ臭さを感じることはあります。しかし、明らかに「いつもと違う」「刺激的な」焦げ臭さを感じた場合は、引きずり走行による異常発熱を疑うべきですね。
修理代はいくらくらいかかるのか
サイドブレーキの引きずりによる修理代は、損傷の程度によって大きく変動します。以下に症状別の費用目安をまとめました。
損傷レベル | 主な修理・交換内容 | 費用目安(後輪左右) |
---|---|---|
軽度(点検のみ) | ブレーキの分解・点検、清掃、調整 | 5,000円 ~ 15,000円 |
中度(部品交換) | リアブレーキシュー/パッドの交換 | 15,000円 ~ 30,000円 |
重度(広範囲な修理) | ブレーキドラム/ローターの交換、ハブベアリング交換、ブレーキフルード交換など | 50,000円 ~ 100,000円以上 |
補足
上記の金額はあくまで一般的な目安です。車種や依頼する整備工場(ディーラー、カー用品店、町の整備工場など)によって工賃や部品代は異なりますので、必ず事前に見積もりを取るようにしましょう。
旧式サイドブレーキは廃止される?
近年、これまで主流だったレバー式(ハンドブレーキ)や足踏み式のサイドブレーキは減少し、スイッチ一つで操作できる「電動パーキングブレーキ(EPB)」が急速に普及しています。
電動パーキングブレーキ(EPB)のメリット
- 操作が簡単:スイッチを押す・引くだけで誰でも確実に作動・解除できます。
- 解除忘れの防止:シフトを「D」に入れてアクセルを踏むと自動で解除される車種が多く、引きずり走行のリスクがほぼありません。
- 先進機能との連携:アダプティブクルーズコントロール(ACC)の停止保持機能などと連携し、運転支援の質を高めます。
このようなメリットから、今後も電動パーキングブレーキの採用は拡大し、従来型のサイドブレーキが完全に廃止される、またはごく一部の車種に限られる可能性は高いと考えられます。
テクノロジーの進化によって、ヒューマンエラーが起こりにくい安全な車が増えていくのは喜ばしいことですね。
サイドブレーキ引いたまま少し走る際の結論
最後に、この記事の要点をまとめます。
- サイドブレーキを引いたまま少しの走行はよくあるミス
- 数メートルから10メートル程度ならまず問題ない
- 通常のブレーキングでも同程度の負荷はかかっている
- バック時も短距離なら心配は不要
- 500m程度の走行からブレーキに熱がこもり始める
- 1キロや5キロと長距離になるとトラブルのリスクが急増する
- 異音はブレーキ部品損傷のサイン
- 「キーキー」「ゴーゴー」といった音がしたらすぐ点検を
- 焦げ臭い匂いは異常な高温の証拠
- 警告灯は必ず確認する習慣をつける
- 警告音が鳴らない車種もあるので注意が必要
- 修理代は損傷レベルにより5,000円から10万円以上まで幅広い
- 長距離走行後はフェード現象やベーパーロック現象に注意
- 最終的には車両火災のリスクもある
- 電動パーキングブレーキの普及で引き忘れは減っていく