ガソリンスタンドやカー用品店で見かける「ガソリン・ディーゼル兼用オイル」。一台で両方のエンジンに対応できる手軽さから、つい手に取りたくなる方も多いのではないでしょうか。しかし、その利便性の裏に隠されたガソリン・ディーゼル兼用オイルのデメリットについて、深く考えたことはありますか?そもそも、ディーゼルエンジンオイルとガソリンエンジンオイルの違いを正しく理解しているでしょうか。
この記事では、兼用オイルの基本的なメリットから、知っておくべきデメリット、そして「ディーゼルエンジンオイルをガソリン車に、あるいは軽自動車にディーゼルオイルを使っても本当に大丈夫なのか?」といった具体的な疑問まで、プロの視点で徹底解説します。トラクターのような特殊車両用オイルとの違いや、カストロールといった有名ブランドの製品評価にも触れながら、あなたの愛車に最適なオイル選びをサポートします。
- ガソリン用とディーゼル用オイルの根本的な違い
- 兼用オイルのメリットと、見過ごされがちなデメリット
- ガソリン車にディーゼル用オイルを使用する際のリスクと注意点
- 愛車の性能を最大限に引き出すためのオイル規格の正しい見方
ガソリンディーゼル兼用オイルのデメリットとその背景
- ディーゼルエンジンオイルとガソリンエンジンオイルの違い
- 兼用オイルの基本的なメリット
- 知っておくべき兼用オイルのデメリット
- 結局エンジンに入れても大丈夫か
- ディーゼルエンジンオイルをガソリン車に使うリスク
ディーゼルエンジンオイルとガソリンエンジンオイルの違い
ガソリンエンジンオイルとディーゼルエンジンオイルは、同じ「エンジンを潤滑する」という目的を持ちながらも、その性質は大きく異なります。この違いを理解することが、兼用オイルの特性を知る上での第一歩となります。
最大の違いは、エンジン内部で発生する汚れの種類と、それに対応するための添加剤にあります。ディーゼルエンジンの燃料である軽油には、ガソリンよりも多くの硫黄分が含まれています。この硫黄が燃焼すると「硫黄酸化物」という酸性の強い物質が発生し、エンジン内部を腐食させる原因となります。
そのため、ディーゼルエンジンオイルには、この酸を中和するためのアルカリ性添加剤(清浄分散剤)がガソリン用オイルよりも多く配合されています。これが、ディーゼルオイルが高い洗浄力を持つと言われる理由です。
エンジンの仕組みの違いも影響
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンよりも高い圧縮比で燃料に自己着火させます。この高い圧力に耐え、密封性を保つために、ディーゼルオイルは一般的に粘度が高く、厚い油膜を形成するように作られています。一方、ガソリンエンジンは高回転域を多用するため、オイルには高回転でも油膜が切れにくい性能が求められます。
このように、それぞれのエンジンが持つ特性に最適化されている点が、専用オイルの大きな特徴なのです。
兼用オイルの基本的なメリット
専用オイルとの違いを理解すると、兼用オイルの存在意義が見えてきます。兼用オイルが市場に多く流通している最大の理由は、その利便性と経済性にあります。
例えば、ガソリン車とディーゼル車の両方を所有している家庭であれば、オイルの種類を一つにまとめることができます。これにより、オイルの管理が非常に楽になり、買い間違いのリスクも減らせるでしょう。
また、ガソリンスタンドやカー用品店といった販売店側にとってもメリットは大きいです。多種多様な専用オイルをすべて在庫として抱えるのは、スペースやコストの面で大きな負担となります。しかし、ガソリンとディーゼルの両方に対応できる兼用オイルを置くことで、在庫の種類を絞り込み、効率的な店舗運営が可能になるのです。

言ってしまえば、兼用オイルは「どちらにも使える」という汎用性の高さが最大の強みです。特に性能に強いこだわりがなく、標準的なメンテナンスを経済的に行いたいユーザーにとっては、非常に合理的な選択肢と言えるでしょう。
知っておくべき兼用オイルのデメリット
利便性が魅力の兼用オイルですが、その一方で無視できないデメリットも存在します。最も大きなデメリットは、性能面で「どっちつかずの中途半端」になりがちな点です。
前述の通り、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンでは、オイルに求められる性能が異なります。兼用オイルは、その両方の規格をクリアするために、様々な添加剤をバランス良く配合していますが、これは裏を返せばどちらかのエンジンに性能を特化させていないということです。
性能のトレードオフ
例えば、高回転性能を重視する高性能なガソリンスポーツカーに兼用オイルを使用した場合、専用の化学合成油ほどの保護性能が得られない可能性があります。逆に、過酷な環境で使われるディーゼルエンジンにとっては、専用オイルが持つ高い清浄分散性能や耐久性に及ばないケースも考えられます。
もちろん、一般的な乗用車が日常的な使い方をする範囲であれば、兼用オイルで問題が発生することはほとんどありません。しかし、愛車の性能を100%引き出したい、あるいはエンジンを最高の状態で維持したいと考える場合、兼用オイルは最適解ではない可能性があることを理解しておく必要があります。
結局エンジンに入れても大丈夫か
では、結論として兼用オイルを自分の車に入れても良いのでしょうか。これに対する答えは、「基本的には大丈夫ですが、推奨されないケースもある」となります。
特に重要なのは、ガソリン車とディーゼル車の関係性です。
- ガソリン車にディーゼル規格対応オイルを入れる → 基本的に問題なし。
- ディーゼル車にガソリン専用オイルを入れる → これは絶対にNGです。
ディーゼル車にガソリン専用オイルを入れると、硫黄酸化物を中和できずにエンジン内部が腐食したり、ススによる汚れでエンジンに深刻なダメージを与えたりする危険があります。そのため、市場で「兼用」として販売されているオイルは、必ずディーゼルエンジンに必要な性能(CF、DL-1など)を満たしています。
一方で、ガソリン車にディーゼル対応のオイルを入れることは、むしろメリットをもたらす場合もあります。特に、走行距離がかさんだ古いエンジンに対しては、ディーゼルオイルが持つ高い洗浄効果で内部のスラッジを除去したり、高めの粘度で部品の摩耗によって生じた隙間を埋めて圧縮を回復させたりする効果が期待できるのです。
ディーゼルエンジンオイルをガソリン車に使うリスク
ガソリン車にディーゼルオイルを使うことにメリットが期待できる一方で、いくつかのリスクも存在します。安易な使用は避けるべきでしょう。
第一に、触媒への影響が挙げられます。古い規格のディーゼルオイルには、ガソリン車の排気ガスを浄化する三元触媒の性能を低下させる可能性のあるリンなどの添加剤が多く含まれていることがありました。現在のクリーンディーゼル対応オイル(低SAPS油)ではこのリスクは低減されていますが、ゼロではありません。
第二に、粘度の問題です。ディーゼルオイルは一般的に粘度が高いものが多く、「10W-30」や「15W-40」などが主流です。近年の燃費を重視するガソリン車では、「0W-20」のような非常に低粘度のオイルが指定されていることがほとんどです。
粘度不適合による弊害
指定よりも硬いオイルを使用すると、エンジン内部の抵抗が増えて燃費が悪化したり、冬場のエンジン始動性が低下したりする可能性があります。愛車の性能を維持するためにも、メーカーが指定する粘度グレードを守ることが基本です。
これらの理由から、ディーゼルオイルをガソリン車に使うのは、過走行でオイル消費が激しいなど、特定の目的がある場合に限った方が賢明と言えます。
ガソリンディーゼル兼用オイルのデメリット以外の論点
- 軽自動車にディーゼルオイルを入れても良いのか
- トラクター用オイルとの相違点
- カストロール製兼用オイルの性能評価
- 兼用オイルの規格の見方(API/ACEA)
- ガソリンディーゼル兼用オイルのデメリット総括
軽自動車にディーゼルオイルを入れても良いのか
「軽自動車のエンジンをきれいにしたい」という目的で、洗浄効果の高いディーゼルオイルの使用を検討する方がいるかもしれません。しかし、これはあまり推奨される方法ではありません。
軽自動車のエンジンは、普通車に比べて排気量が小さく、その分高回転まで回してパワーを絞り出すように設計されています。このような高回転型のエンジンには、抵抗が少なくスムーズに循環する低粘度のオイルが最適です。
ここに粘度の高いディーゼルオイルを入れると、エンジンの吹け上がりが重く感じられたり、燃費が大幅に悪化したりする可能性が高まります。もちろん、走行距離が10万kmを超えたような古い軽自動車で、オイル上がりや下がりが発生している場合に、応急処置的に硬いオイルで症状を緩和させるという使い方は考えられます。

ただ、基本的には軽自動車にはメーカーが指定する省燃費性能に優れたオイルを使用するのがベストです。エンジン内部の洗浄が目的であれば、専用のフラッシング剤や、洗浄効果の高い添加剤を活用する方が、より安全で効果的と言えるでしょう。
トラクター用オイルとの相違点
ディーゼルエンジンと聞くと、乗用車だけでなくトラクターやトラックといった働く車をイメージする方も多いでしょう。これらの車両にも当然ディーゼルエンジンオイルが使われますが、乗用車用のオイルとは少し性質が異なります。
トラクターや建設機械などは、常に高い負荷がかかった状態で、比較的安定した回転数で長時間稼働するという、乗用車とは全く異なる使われ方をします。そのため、これらの車両に使われるオイルは、高温・高負荷という過酷な状況下での耐久性やエンジン保護性能が特に重視されています。
規格においても、乗用車向けの「DL-1」などとは別に、大型トラックやバス、建設機械向けの規格として「DH-1」や「DH-2」といったJASO(日本自動車規格)が存在します。これらは、乗用車用オイルよりもさらに過酷な環境を想定した規格であり、配合されている添加剤なども異なります。
したがって、同じディーゼルエンジン用であっても、乗用車にトラクターや大型トラック用のオイルを使用したり、その逆を行ったりすることは、エンジンの寿命を縮める原因になりかねませんので避けるべきです。
カストロール製兼用オイルの性能評価
兼用オイルを選ぶ際に、具体的な製品としてよく名前が挙がるのがカストロールです。特に「カストロール EDGE」シリーズは、性能にこだわるユーザーからも高い評価を得ています。
例えば「カストロール EDGE 5W-40」は、高性能な100%化学合成油をベースにしており、ガソリン・ディーゼル兼用のオイルです。この製品の特筆すべき点は、日本のAPI規格だけでなく、厳しい基準で知られる欧州の自動車メーカー規格「ACEA A3/B4」にも適合していることです。
ACEA規格は、エンジン保護性能やオイルの耐久性を特に重視しており、A3/B4規格は高性能なガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン双方に対応することを示します。これにより、欧州車のような高性能なエンジンにも安心して使用できる品質を持っていることが分かります。
実際に、走行距離の伸びたエンジンのリフレッシュ目的で、あえてこのオイルを選ぶ整備士もいます。高い洗浄性能と、強固な油膜によるエンジン保護性能を両立した、兼用オイルの中でも信頼性の高い選択肢の一つと言えるでしょう。
兼用オイルの規格の見方(API/ACEA)
オイル缶に記載されているアルファベットの羅列は、オイルの性能を示す重要な「規格」です。これらを正しく理解することが、愛車に合ったオイルを選ぶための鍵となります。
API規格
アメリカ石油協会(API)が定める規格で、ガソリンエンジン用は「S」、ディーゼルエンジン用は「C」で始まります。兼用オイルには両方が併記されています。
重要なのは表記の順番です。「SL/CF」のようにSが先にあればガソリンエンジンを主体に、「CF-4/SL」のようにCが先にあればディーゼルエンジンを主体に開発されたオイルであることを意味します。
ACEA規格
欧州自動車工業会(ACEA)が定める規格で、欧州車にはこちらの規格が指定されていることが多いです。乗用車用では、ガソリン用(A)とディーゼル用(B)が統合され、「A3/B4」のように併記されるのが一般的です。これは、ガソリンとディーゼルのどちらにも高い性能を発揮することを示します。また、近年のクリーンディーゼル向けには、DPF(粒子状物質除去フィルター)への影響が少ない「C」規格(C3など)があります。
規格 | 主な対象 | 特徴 |
---|---|---|
API (SN/CF) | ガソリン車主体 / ディーゼル車対応 | Sから始まる規格が新しいほど高性能。/が示す通り、主用途はガソリン。 |
ACEA (A3/B4) | 高性能ガソリン車 / ディーゼル車 | エンジン保護性能、耐久性を重視。欧州では兼用が標準的。 |
JASO (DL-1) | 国産クリーンディーゼル乗用車 | 日本のDPF装着車に必須の規格。灰分が少ない。 |
自分の車がどの規格を要求しているかを取扱説明書で確認し、それに適合したオイルを選ぶことが最も重要です。
ガソリンディーゼル兼用オイルのデメリット総括
- 兼用オイルの最大のデメリットは、性能が専用オイルに比べて特化していない点にある
- ガソリンエンジンとディーゼルエンジンでは燃料の性質が異なり、オイルに求められる性能も違う
- ディーゼルオイルは、燃料由来の酸性物質を中和するため高い洗浄分散性能を持つ
- ガソリンオイルは、高回転域でのエンジン保護性能が重視される傾向にある
- 兼用オイルのメリットは、在庫管理のしやすさといった利便性と経済性
- ガソリン車にディーゼル対応オイルを入れることは基本的に問題ない
- 古いガソリンエンジンでは、ディーゼルオイルの洗浄効果や粘度が良い影響を与えることもある
- ただし、近年の省燃費車に粘度の高いディーゼルオイルを入れると燃費悪化のリスクがある
- ディーゼル車にガソリン専用オイルを入れるのは、エンジン故障に直結するため絶対に不可
- 軽自動車のような高回転型エンジンに、粘度の高いディーゼルオイルは推奨されない
- トラクター用のオイルは、乗用車とは使用環境が異なるため流用は避けるべき
- カストロールEDGEのような高性能な化学合成油は、兼用オイルの中でも信頼性が高い
- オイル規格のAPI表記は、先に書かれている方が主用途を示す
- 欧州のACEA規格では、乗用車用オイルは兼用が一般的である
- 最終的には、車の取扱説明書で指定された規格と粘度を守ることが愛車にとって最善の選択